幸せになるための姿勢とその道具の話


このページは、以前私が18才以上の重い障がいを持つお子さんを持つお母さん(家族)のために書いた、姿勢と道具の話です。
私は、姿勢保持具をつくる仕事をしていますが、その一方でその道具を使う重い障がいを持つ子の親でもあります。
これまで、重い障がいを持つこども達の姿勢保持具を作りながら、実はそのこども達の家の中の姿勢には、ほとんど関わってこなかったことに気づきました。
特に、支援学校を卒業した後は、道具づくりとしての関わりも減ります。
それで、拙い私の考えですが、日々頑張っているお母さんが少しでも楽に、そして幸せに姿勢のことを考えてもらえる、小さなきっかけになればと思っています。


座位保持装置とか姿勢保持装置とか仰々しい名前がついていますが、重い障がいを持つ人専用の椅子や車いすや姿勢をサポートする道具のことです。
これらは、医療機器ではありませんから、これが無いからと言って命の危険があったり、逆に使うことで障がいが治ったりするものではありません。
障がいがあることで生じる生活上の不都合を、改善するための道具です。
ですから、本来姿勢保持具は、障がい児者とその家族を幸せにするための道具でなければいけません。

食事用の椅子とくつろぐ為のリビングの椅子では、機能も形状も異なります。
今多くのこども達が使っている姿勢保持具は、多分学校で使用する機能(2時間位座っていても姿勢が崩れないもの)を基準に作られていると思います。
ですから、この基準でつくられた姿勢保持具が本来の機能を発揮するのは、支援学校で使用される時です。
支援学校ではこども達一人一人に担任の先生が付きますから、こども達の様子に合わせて姿勢を変えたり寝かしたりと、きめ細かく対応してくれています。
時には校外に外出したり、行事等で数時間乗り続けることもあります。
だから、姿勢の崩れない姿勢保持具で良いのです。


もしも、あなたがほったらかしで2時間同じ姿勢で座らされたらどうでしょうか。
多分「この拷間を止めてくれ!」と叫びだすに違いありません。
ですから、道具は使い方次第なのです。
幸せのために作ったはずの道具が、拷間の道具に代わることだってあるということです。

お母さん方は、姿勢保持具を申請してから、セラピストや専門の業者が時間をかけて製作される過程を知っているので、自分が口を出せない特別なものと思っているのかも知れません。
そこまで思わなくても、そうやってプロが作る姿勢保持具(学校用)が、そしてその姿勢が、最良のものに違いないと思っているのではないでしょうか?
何度も言いますが、道具は使う場所で機能も形状も異なるのが普通です。
学校では最適でも、家で使って最良とは限りません。
特に家の中での姿勢保持の主役はお母さんです。
だから、お母さんが、お子さんと家族が幸せになる姿勢保持具を考えてほしいのです。
答えは一人一人違うかも知れませんが、家族みんなが幸せならどれも正解です。


- 本人が楽
- 介助者(特に母親)が楽
- 出来れば、費用が余りかからない
- 部屋の中で邪魔にならない
- 使いやすく、壊れにくい
これって日常生活で商品を選ぶ基準と同じですね。
道具ですから。
- 介助が大変だけど仕方がない
- 値段が高くても仕方がない
- 重くて邪魔でも仕方がない
- 使い難いが、これしかないから仕方がない
もしも、お母さんが不満に思うのであれば、たとえ本人に合ったものであったとしても、幸せになる姿勢の道具とは言えないかも知れません。

幸せになる姿勢保持具を受け入れるには、まずお母さんの「崩れた姿勢は駄目」という思い込みを変えることから始めなければなりません。
学校用の姿勢保持具の、姿勢の基準は一旦捨てましょう。そして、ベストを求めるのは止めましょう。
姿勢は崩れるものです。
そして、家の中だったら、崩れたら直してあげれば良いだけのことです。


私の実感として、機嫌よくリラックスしている時は姿勢は崩れにくく、機嫌が悪い時は、緊張も高く姿勢は崩れ易くなります。
例:私の娘の場合、こんな時姿勢が崩れます。(こんなことを思っているのでは・・。)
- ビデオが面白くない時(違うアニメに変えて~)
- 不快な時(汚れて気持ち悪いよ!)
- 体調不良の時(辛いよ~)
- 発作の時(・・・・)
- こちらの気を引く為(ちょっとは相手して~)
私は、姿勢の崩れも娘のコミュニケーションの一つだと思っています。
姿勢が崩れている時、これらをチェックし、姿勢を直します。
これで娘は、最短で不快な思いから解放されるし、姿勢を直す度にストレッチも受けられます。
それともう一つ、崩れた姿勢を本人は、それ程嫌がっているようには見えないということです。
(だからと言って、崩れたままでいいと言っている訳ではありません。)
多分、耐えられないのは、親なのです。

三角マット2枚(1枚は特大90×90×20cm)・膝下クッション(なるべくシンプルな形状)・ミラクールマット・ヘッドレスト用バスタオル これだけ。
大きい三角マットは便利ですよ。
姿勢が崩れても落ちないし、添い寝だって出来ます。
それと角度調整用の三角マット。
二つの三角マットを組み合わせることで、ちょっとした座位姿勢も取れます。
その日の体調に合わせて簡単に角度調整出来ます。
そして、とても大事なのが膝下クッションです。
自分で試してみれば分かりますが、膝を伸ばした仰向け姿勢は、結構しんどい姿勢です。
適度な膝の屈曲は、リラックスした姿勢を作るのに欠かせません。
また、膝下クッションを使用せずに三角マットを使用すると、直ぐにずり落ちてしまい、角度調整どころではありません。
三角マットに膝下クッションは、セットだとお考え下さい。(膝下クッションは、市販のクッションで代用可能です。)


三角マットに膝下クッションの組み合わせでと言いましたが、変形の強いお子さんや頻繁に発作が出るお子さん、膝が屈曲し難いなど様々なケースがあると思います。
あくまでも、自分のお子さんにとってどんな姿勢が楽なのかを考えて下さい。
たとえば、Uクッションは使い方次第で融通が利きます。
是非、一度試してみて下さい。


今娘はミラクールマットを使っています。
以前は、特に夏場など抱き起こす度に背中が汗でぐっしょりでした。
娘は不快で怒るので、それでまた汗をかくといった悪循環でした。
今は、しっとりしている時はありますが、以前とは比べようもありません。
それと、利点の一つに簡単に洗えるということがあります。
敷マットはどうしても汚れるもの、そんな時、簡単に洗えてすぐに乾く機能はとても便利です。

いずれにせよ頑張らない、そして、自分の楽な方法を選択する。
これは、手抜きではありません。
幸せになる姿勢を考えるとても大切な考え方だと思っています。
長く楽に続けられることこそが大切なのです。

みなさんは、これを読まれてどんな風に思われたでしょうか?
「そんなことは、知っているよ。」と思われた方も多いでしょう。
そうは言っても、食事はどうするの?
そうです。実は問題は、そんなに簡単ではありません。
でも、あえて簡単に書きました。
何故なら、18歳以降の生活は問題山積みなのです。
入浴はどうするの?
日中の生活の場は何処?
親亡き後はどうなるの?
・・だから私は、あえて姿勢のことは、シンプルで良いと思っています。
でも、決めるのはお母さん(お父さんでも)あなたですよ。
(平成26年4月著)